ジュブナイル

ジュブナイル

お前が俺を去ってから

雑踏の道化に俺は埋もれた

 

道化は俺とすれ違い

眼つきに色を浮かべては

また足早に過ぎてゆく

 

あの日から

何も言わない俺の眼に

今さら何が欲しかろう

 

俺は道化とすれ違い

何も見つめず雑踏をゆく

 

風に舞うビラの

見知らぬ文字が眼を過る

お前は今やこのビラの

薄い真裏で俺を唯

余所者顔で笑うだろう

 

ジュブナイル

お前が遠くへ行くのなら

俺も旅立つ筈だった

だが出立には遅過ぎた

落日が静かに此の身を照らした

 

揺れては消える真白い背中―

 

誰も知らない雪のような

封を鎖した記憶のなかで

沈黙のまま問いかける

幼気な

それでいて透明な眼差し

 

ささやかな穢れに曇るその眼に

傷付いたのはこの俺で

 

朝風に靡く樹の下で

安らかに夢視るその顔を

いつまでも守って居たかった

 

何処かで俺を呼んだ気がした―

 

過ぎ去る影に浮かぶのは

永遠を駆けゆく二人の背中

二度と帰らぬ俺達の夏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

射光

振り向けば
記憶の舞台に佇む私
あの日
未来が煌めく少女を連れて
私に夢を授けたの
眩い光に照らされる夢

私は光の表現者

幻を歌い
時代と踊った
憧れに抱かれた夜の痛み
握ぎられた手も
覗かれた眼も
愛する代わりにただ繰り返した
口づけたのは氷の愛

今なら解るの
光とは一筋の傷だと

貴方の記憶で微笑む私
私は光の表現者

 

夏夜

短い夏の去り際に
忘れかけてた名を呼んだ

あの日
瞼の裏に描いてた
夢にこの身を攫われて
震える指を君に捧げた

遠雷は祝祭の前触れで

ひとつの言葉に竦められ
言葉をひとつ失った

明かりの影で夜を結び
月の微笑に愛を解いた

雨の近さにたじろぎもせず

ながい口づけは音楽に似て
不意に落ちてく落雷が
その旋律を騒がせる

闇の静寂の血潮に残る
眩ますほどにつめたい調べ

 

 

耀光

打ち寄せて

汀を浚う白波の

乾く砂面に消える泡沫

 

波間を走る耀きは

思い出せない在りし日の影

 

風が凪ぎ

鴎が空を通り過ぐ

 

潮騒だけが響く辺に

目蓋を閉じる私の眼

 

消せぬ光が記憶なら

帰らぬ声は誰のもの

 

その輪郭をなぞっても

その輪郭は閉じたまま

 

遠く耳を打つ

別れのような遥かな汽笛

 

 

 

 

GRAPEVINE『停電の夜』について

GRAPEVINE『停電の夜』について。

人が住まう街には、光が溢れている。

報道が流れるスクリーン。煌々と文字を告げる看板。ディスプレイを過る無数の生活。

それらは光であるのに、私達の眼には、闇を切り裂く一条の力として感じられる事は無い。

それは私達が光に麻痺した結果か。或いは闇に不感した結果か。

光の在る処には、必ず人間が存在する。そして現代では、人間の存在する処は、闇の比喩を意味する。

世界は光を享けては居ない。光に眩んで居るのだ。

光の洪水に飲まれるとは、地底無き闇に溺れる事と同一だ。

 

『停電の夜』は、こんな歌い出しから始まる。

“奇跡は起こらない

それでかまわない

ぼくらは精一杯

朝を迎えに行く”――GRAPEVINE 『停電の夜』

 

GRAPEVINEは、「光」という存在から決して目を逸らす事の無い音楽家である。

それは、誤魔化しを容れない世界を音楽する人達である事を意味する。

濁流のような報道や実世界と、それに対するフィクションの空ろな逆上を、彼等が見逃す筈はない。

故に、彼等は歌い出しで、世界を睥睨し、虚構を唾棄する。

 

歌詞は続く。停電の夜の描写が重なる。

停電の夜を過ごす二つの存在は、その灯を交し合う。

音だけが流れる暗がりで、温もりと月光だけが、静かに確かめ合う。

“風や光でさえ

みんな口出しできずに夜に絡まっていた

世界はきっと こんな二つの灯を

今受け入れたんだ”――GRAPEVINE 『停電の夜』

 

光を失くした世界で、思い出す光が在る事を人は知る。

 

存在と存在を繋ぐ言葉が、存在と存在を分かつ様になって久しい。

街や世界は言葉に絡まっている。

“この火を ねぇ

その灯を消さぬよう

言葉はもう役に立たないよ

この手を繋いでいよう

Like we always do”――GRAPEVINE 『停電の夜』

 

確かめ合う灯だけが、絡まる闇を解く唯一つの光だ。

 

訪れ

訪れの

夢の小路を踏み行けば

人皆知らぬ黄昏の

棚引く影に暮れる街

 

声が行き交う露店屋で

小さな鳥がこう唄う

「お山を越えたらおっ母さん」

「お山越えたらお父っさん」

店屋の親父の滑々の

その額に見惚れては

此の耳朶を抓る俺

 

あれは嘗て

水溜で砕けた私の首だ

 

声が掠れる暗がりで

何時かの歌を口遊み

退くか進むか識らぬまま

来る人に向け会釈する

 

―思えば明日は何処へやら

―思えば明日は何処へやら

 

あれは本当に誰の仕業か―

 

夢の小路を踏み行けば

人皆知らぬ黄昏の

影揺れる街の夢の訪れ

 

 

 

流離

流されて

辿るがままに暮れる日の

雨に輪郭が緩む街

俯く人の傘は揺れ

平静の訪れ

 

濡れた足下に伏せた眼に

私を過る冷えた熱

戻らないもの程鮮やかなのは何故?

葉を撫でる風は地を目掛け

出口無き螺旋を描く

 

重ねた夢を捩り合い

燃え尽きた季節

 

壊れた約束は縺れた響き

交わした囁きがいつか

時を繋ぐまでの流離い