耀光

打ち寄せて 汀を浚う白波の 乾く砂面に消える泡沫 波間を走る耀きは 思い出せない在りし日の影 風が凪ぎ 鴎が空を通り過ぐ 潮騒だけが響く辺に 目蓋を閉じる私の眼 消せぬ光が記憶なら 帰らぬ声は誰のもの その輪郭をなぞっても その輪郭は閉じたまま 遠く耳…

訪れ

訪れの 夢の小路を踏み行けば 人皆知らぬ黄昏の 棚引く影に暮れる街 声が行き交う露店屋で 小さな鳥がこう唄う 「お山を越えたらおっ母さん」 「お山越えたらお父っさん」 店屋の親父の滑々の その額に見惚れては 此の耳朶を抓る俺 あれは嘗て 水溜で砕けた…

流離

流されて 辿るがままに暮れる日の 雨に輪郭が緩む街 俯く人の傘は揺れ 平静の訪れ 濡れた足下に伏せた眼に 私を過る冷えた熱 戻らないもの程鮮やかなのは何故? 葉を撫でる風は地を目掛け 出口無き螺旋を描く 重ねた夢を捩り合い 燃え尽きた季節 壊れた約束…

揺曳

呼びかけて 折りたたんだその指が 夏の膚 遡るたび蘇る 夢の漣に震えてる 行きしなに 置き去りにした名が遠く 青い瞳の引力で 時を俄かに塗り潰す 去り際の 後ろ姿の静けさは 眼差しに棲む棘だった 風に 追憶は揺れ 影を追う記憶 眠れぬ夜の始まりの その饒…

眼差し

あなたが私の傍らで 睦まじく笑む温みより いつか失う悲しみが 此の心に影を射す繊細なものほど心して 見つめるべき筈なのに 傷つくあなたの眩しさに 視線が思わず眼を逸らす現という幻と 正面切ってぶつかって 打ちのめされてひび割れた 身を繕って得たもの…

少女

夢で視た 若草色の草原で 祈りを捧げるその少女 空はどこまでも続いてて 遮るものは何もない すずしい風に揺れるブラウス とおい昔に読んだ なつかしい物語では 花を摘んでいたっけか 幼いわたしは確か その横顔が好きだった あのときなにか言いかけて その…

先触

遠雷が 雨と風とを連れて来る 眠る横顔を伝う涙 私の知らない夜の静寂 夢の汀で搔き消された声 一斉に雨が降り出した

花影

桜散る川沿いの街灯下 強いて遠ざけて 不意に手繰り寄せてた面影が 私の夢を揺らすから 蘇らない唇の 乾いた熱に宿された 果てない夜を思い出す 今 その歩幅に気付いても 立ち止まるには遅過ぎて 散る花びらに目が眩む 思うより その瞼は冷たく その首すじは…

怯懦の笑み

道の途上で会うという 判者を私は探してたけれど道は似たような顔ばかりで 彼等は怯えたように笑った不安定な勝敗を 横目で確認し合い 何時の間にかルールが決まってただけど勝者の笑みは道化のようで 敗者の涙が本当のようで私には見えなかった疑いは背き …

永訣

あなたと見てきた風景が 神様の吐息で空に散って 海風が街まで届く頃私は天使に呟いてみる世界から去った夜 初めて見る夢は 懐かしいさみしさで染めて私と選んだあの日々が 記憶の指に展かれて あなたが夢を纏う頃私は天使に頼んでみる世界に残された朝 泣き…

さきがけ

青春の定義のような 社会の暗黙のような容認された秘密のような未来の追い付けない季節の中で邪な純情を縒り合わせるように曖昧な手続きをして君の唇を知った その日の街は裏腹で疑いようもないほど夏なのに雨の予感を孕んでた 交わす眼差しは眠りから覚め少…

夏の雨に濡れて

いっしょに行こう、と手を取って 夏に塗れたあなた 無邪気に笑う横顔が 射す日差しより眩しくて 愛しい気持ちが溢れだす 街は季節を吸い込んで 人家の軒の風鈴が 公園の子供等の半袖が 八百屋の店先の果物が 絵葉書みたいに特別で十年先の晩ごはんのとき 泣…