GRAPEVINE『雀の子』について

GRAPEVINE『雀の子』について。

この曲は、GRAPEVINEの愛の歌である。

田中和将は、愛を語る人ではなく、愛を生きようとする人だ。

愛の歌を作る彼の手つきは、普段料理を作らない父親が我が子を想って夜食を即席で作るような、ぶっきらぼうな優しさが滲む。

 

やおら調理は開始される。

 

“怖いもんはおまへん

ワレは何か知っとんか

ほんだら三十万円や

わては本気出しまっせ”――GRAPEVINE『雀の子』

 

“早よからオープン

四時からオープンでっせ

五時からハッピー

ハッピーアワーでんねん

わてらは放蕩中年

かましいなってきて

せやからどうせえっちゅうねん

今晩どうや? どうや? ええ?”――GRAPEVINE『雀の子』

 

具材を素早く拵え、鍋に火を点ける。

 

“そこのけそこのけ御馬が通るで(雀の子マイベイビー)

怒りと哀しみをぶつけたんねん

このザマを見ていけ”――GRAPEVINE『雀の子』

 

煮えくりかえる鍋を見ながら、彼は追想する。

 

“金は全部遣うた

連れはどっか逃げた

六時にオープンオープン

七時スタートでっせ

これから挽回したんねん

ヒマな兄ちゃん姐ちゃん なぁ”――GRAPEVINE『雀の子』

 

我が子は、拵えた意味に気づくか否か。

 

“辛いで 惨いで 痛ましいで (あんたもそうやレイディ)

わてと来て遊べや親のない子

歌にして饂飩食わしたる”――GRAPEVINE『雀の子』

 

どうして子は、彼の背中を見てきたではないか。

滋味豊かな饂飩は、しかし彼にしては珍しく、味が濃い。

 

そろそろ饂飩が完成する。

 

“そこのけそこのけ御馬が通るで(雀の子マイベイビー)

憂き世の現を暴いたるで”――GRAPEVINE『雀の子』

 

子を呼ぶ彼の声が、聞こえる。