2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

少女

夢で視た 若草色の草原で 祈りを捧げるその少女 空はどこまでも続いてて 遮るものは何もない すずしい風に揺れるブラウス とおい昔に読んだ なつかしい物語では 花を摘んでいたっけか 幼いわたしは確か その横顔が好きだった あのときなにか言いかけて その…

先触

遠雷が 雨と風とを連れて来る 眠る横顔を伝う涙 私の知らない夜の静寂 夢の汀で搔き消された声 一斉に雨が降り出した

花影

桜散る川沿いの街灯下 強いて遠ざけて 不意に手繰り寄せてた面影が 私の夢を揺らすから 蘇らない唇の 乾いた熱に宿された 果てない夜を思い出す 今 その歩幅に気付いても 立ち止まるには遅過ぎて 散る花びらに目が眩む 思うより その瞼は冷たく その首すじは…

藪内亮輔『海蛇と珊瑚』について

藪内亮輔氏の歌集『海蛇と珊瑚』は、私の青春を一挙に終止させた作品だった。 彼の歌は、進むべき方位を失くした夢を私から拉し去った。 “虹、といふきれいな言葉告ぐることもうないだらう もう一度言ふ”――『海蛇と珊瑚』藪内亮輔 私が『海蛇と珊瑚』で最も…