ふと、GRAPEVINEの『アナザーワールド』を聴きたくなる時がある。
明日に進まなければならないのに、過去に呼び止められた雑踏で。
言葉にならない悲しみが、記憶に爪を立てる夜に。
人間と共に生きていくということは、誰にも言わぬと決心した瞬間を積み重ねていくことだ。
人間はどこまでも、どこかで社会的な自己を演じている存在だ。
他人の嘲笑も、棘で武装した言葉も、その人の息の根を止めることは出来ない。
傷跡を残せるのは人が被る仮面にだけである。
ほんとうに人間の中で人間が死ぬのは、自分が愛する存在を傷つけた時だ。
そんな事を考えていると、ふと『アナザーワールド』の歌詞が頭によぎる。
“生まれた時から歩けるのは この道だけだったのか”――GRAPEVINE『アナザーワールド』
歩ける道はこれだけならば、この道を行くのは自分一人しか居ない。
この道が見えるのも自分自身しか居ない。
だから、途上で別れた人も、道端で待っていた不幸も、すべてが瞼の裏に棲息している。
俯いて街を歩く時ほど、空の青さに憧れるときはない。
蟠りひとつ無いようなあの青さ。
手を伸ばして、掴むことが出来たなら。
いっそ、心を投げやってしまえたら。
いつか空の向こうで吐き出せたなら。
閊えた言葉を飲みこんで、私はまた歩き出す。