GRAPEVINE『Ub(You bet on it)』について

GRAPEVINE『Ub(You bet on it)』について。

この曲は2019年発表の『Gifted』の止揚的消化の結実である。

『Gifted』に託された「若い私」<以下、便宜的に"彼"と称す>が、終に己の出番を認識する。その一局を描いた曲だ。

『Gifted』で彼は世界を眺める視座から動くことを固辞していた。

それは、彼が世界を喪わぬ為に採った、措定的処置であった。

 

世界へ飛び込めば、世界を見喪う。世とは、そういう構造の円体だからだ。

 

では、彼はどうやって『Gifted』を消化したか。

措定的と見做されていた視座を、宿命的視座と看取したのである。

彼はようやく、自らも虚構という世界舞台に立ち混じる事を了解する。

しかし、虚構の舞台役者としてではなく、虚構の後見として、である。

“誰もがそれに飛びついた

おれはどうでもいい気がした

腰を掛けて腹を決め

やおら立ち上がる日を待つ

次はスペードだ 賭けてもいい”――GRAPEVINE 『Ub(You bet on it)』

 

小暗い黒衣の奥、漆黒の肉眼が光る。

 

“世界中が敵だと感じたなら

選ばれたってことさ

呆れるほど独創的なプレイスタイルで

今ひっくり返しちまえ”――GRAPEVINE 『Ub(You bet on it)』

 

彼は、世界を眺める事は、同時に世界に眺められる事だという事実を、『Ub(You bet on it)』の脚本家から予め伝言されていた。

 

 

“新しい果実には当然

熟す時が訪れる

彼等はもう頬張る寸前 いやもう遅い

既に食べてしまったんだろう”――GRAPEVINE 『Ub(You bet on it)』

熟れずして果実を狩った者の、その味に飽き足らぬ声。熟れ過ぎた果実を狩る者の、未だ見ぬ麗しさを求めて彷徨う足取り。

“熟れすぎたのは 是か非か”――GRAPEVINE『Ub(You bet on it)』

彼は、役者が果実を頬張る表情を、具に眺める。

 

『Gifted』で「若い私」に“おまえの価値をくれないか”と虚構への参加を促した声は、『Ub(You bet on it)』の最後、こう囁きかけた。

“世界中が素敵だと感じたなら

あと一息ってとこさ

呆れるほど革命的なアティチュードで

きみを守り抜いてやる

ひっくり返すのさ

賭けてもいいぜ Baby”――GRAPEVINE 『Ub(you bet on it)』

 

 

"素"の敵を感じたなら、"素"の味方もわかるだろう?

――「きみを守り抜いてやる」

 

「若い私」の声が、世界に届いた証である。